向日葵売り

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彼は向日葵売りになった
それは彼の大事な人が好きだった花
そして彼は大事な人を守れなかった

誰も彼のせいとは言わない
彼はいつも一生懸命だった
こうありたいと思う
それが彼の原動力

しかしそれは欲であり
かくありたいという思い
執着すれば鬼と同じ

つまり自分で精一杯
大事な人の寂しさを
解ってあげることが出来なかった

どんなに不安だったか
どんなに傍にいて欲しかったか
それを見ようとしなかった

そして彼は大事な人を失った

独ぼっちになってしまった彼に
かろうじて意味がある物は
大事な人が好きだった花
とりわけ向日葵だったという訳だ

食べて行ければいい
彼はあっさり仕事をやめた
そして向日葵売りになったのだ

市場に行って花を仕入れ
籠に入れて売り歩く
待っていてくれる客もいる
自分が役にたてることがある
それが彼にはありがたかった

ずっとこのまま一人でいよう
そう思っていたいのだ

しかし帰り道で雛を拾い
こいつと一緒も楽しかろう
育てて一緒にいることで
彼は少しほころんだ

跳べる様になった小鳥を連れて
彼は向日葵を売り歩く
それはそれで幸せだった

一軒のお得意さんの家に
いつものように寄った時
いつものおばあさんは留守だった

一人の娘が留守番し
向日葵を買う様に頼まれていた

どの向日葵がいいかしら?
向日葵売りさん、どれがいい?
おばあちゃんは
いつもあなたが来る事を
心待ちにしているの
あんまり楽しそうに言うもんだから
私もお会いしたかった


向日葵売りは心の中で
大事な彼女と似てはいない
もう大事な人はつくれない

けれど彼の心はほころんだ
雛を拾った時よりも
おばあちゃんに喜んでもらえた時よりも


目には見えない
人間の心

娘は確かに少しずつ
固まってしまった彼の心を
向日葵売りの時間の針を
動かし始めているかもしれない
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by t2mina | 2008-06-07 22:47 | イラスト