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家守綺譚(いえもりきたん)梨木香歩

用事が済んだ夕方、立ち寄った本屋さんで立ち読みをした。
斜め読みではあるが、気がついたら小一時間経っていて、読み終えていた。
文体や時代も含めた場面設定が夏目漱石風。
内容は、ファンタジーと言っていいと思う。

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亡くなった友人の父に頼まれて、その実家の家守り役の下宿人として住む事になった主人公。
主人公の私は、一応は物書きだが、今ひとつぱっとしない。

その家の裏山から庭にかけては、サルスベリ、都忘れ、桜、葡萄等、色々な草花や木の花が咲き、池があったりする。

これらの植物が時に人間になって、私の所を訪れる。
もらい物をしたり、好かれたり。
時には、狐、狸の類にばかされたのか?と思う事も起こる。

それから、亡くなった友人も時々掛け軸から現れて私の所に遊びに来たり。

飼い犬のゴローは池の河童と仲良くなって、時々帰ってこなかったりする。

ゴローと一緒に山に入ってその姿を見失った時、主人公は広場に出る。
そこでは、音楽が奏でられ、円卓で人々が談笑して、こぼれんばかりの食べ物、飲み物を飲み食いしている。

主人公は葡萄を勧められる。
「さあ、どうぞ、お腹はすいていなくとも、喉は渇いているはず。」
でも、主人公には、違和感があり、言う。
「私は帰らねばならないのです。」
「なぜ?」
「なぜって、、。」
「此処にいれば心穏やかに過ごせる。俗世に戻って下司に染まっていく必要などありません。」
と誘われる。

私は、なぜ気乗りしないのかを考える。
確かにそれは理想の生活。しかし、私にはその優雅が性分に合わない。
私には、与えられる理想より、刻苦して自分で掴み取る理想を求めているのだ。

そして、勢いでこう言う。

「つまり、こういう生活は私の精神を養わない。」

私を誘っていた髭の男は、戸惑い、泣きそうになる。
そして、私は家に戻ってくる。

再び、死んだ友人が現れ、私は、そうか、こいつは葡萄を食べたのだ、と気付く。
そして、自分にはやるべき事があることにも気付いている。自分は書く事ができると。

私は、亡くなった友人に、「またくるな?」と聞くと
友人は「また来るよ。」と言って消えていく。

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最後の場面では、心が感動していた。
怖いお化けの話ではない。
私は、自分で決めて前に進む事ができた。
行ってみて、帰ってくることができた。
行ってみなければ、解からなかったことだろう。

梨木さんの作品がたくさん出ていた。裏庭以来、ぐんぐん伸びていてくれて嬉しい限りだ。
by t2mina | 2005-09-23 23:45 | 本・映・音・展